あし ― 2008年10月04日 23時04分35秒
ああ、ストレスがたまる。
仕事続きだし、秋だし。
で、そろそろ季節かなあと、コスモス園に行ってみたのだけれど、

残念、コスモスの見頃は来週らしい。
コスモスが盛りだと人も結構多いので、のんびりできて却って良かったかも。
空いている売店で焼きそばを買って食べたりしながら、
芝生の上でぼんやり。
で、
こんなものを撮っていた。

あし。

大学生くらいの頃、
レコード屋の前に座り込んで、目の前を行き交う人の足を見つめるのが好きだったのを、
思い出した。

全然覗かずに、勘で撮るのだけどね。

足フェチかもしれん(笑)

これから、こんなものばっかり撮ってたら、どうしよう。

特に、オチはない、のだった。
もうしばらくは忙しい予定。
仕事したくねぇーっ、とうだうだ言いつつ、過ごす予定。
仕事続きだし、秋だし。
で、そろそろ季節かなあと、コスモス園に行ってみたのだけれど、

残念、コスモスの見頃は来週らしい。
コスモスが盛りだと人も結構多いので、のんびりできて却って良かったかも。
空いている売店で焼きそばを買って食べたりしながら、
芝生の上でぼんやり。
で、
こんなものを撮っていた。

あし。

大学生くらいの頃、
レコード屋の前に座り込んで、目の前を行き交う人の足を見つめるのが好きだったのを、
思い出した。

全然覗かずに、勘で撮るのだけどね。

足フェチかもしれん(笑)

これから、こんなものばっかり撮ってたら、どうしよう。

特に、オチはない、のだった。
もうしばらくは忙しい予定。
仕事したくねぇーっ、とうだうだ言いつつ、過ごす予定。
4. 峠 ― 2008年10月24日 20時41分01秒

ついに俺は車を止めた。
慎重に車を山肌に寄せエンジンを切ると、途端に静寂が俺に襲いかかった。細く折れ曲がった峠道には俺の他に通る車も無い。大きく息をついて俺はシートのリクライニングを倒した。
車ごと牛乳の中に沈んでしまったかのような風景が、窓の外一面に広がっている。
指一本でゆっくりと倒れる快適なシート、そんなものだって今は何の慰めにもならない。眠ってしまいたくて俺は目を閉じた。何の気無しに頭の上に振り上げた腕、スーツの袖から何かが香った。
線香の煙。
鈴(りん)の音。
目の奥で蝋燭の炎がゆらゆらと揺れる。
ゆらゆら。
ゆらゆら。
俺は目を開けた。深いブラウンで覆われた天井は見るべきものも何もなく、仕方なく俺は窓の外に目を向けた。目を凝らすと、ねっとりとした濃い霧がゆっくりと流れていくのが見える。
今までのことが、ついさっきまでのことが、まるで現実ではないかのように思える。後から後から限りなく湧き出して流れていく霧が、いつの間にか俺を異世界に運んで行ったのかもしれない。
……もし、そうなら。いや、その方が。
ぼんやりと眺めていた霧の隙間にふと、何かが見えた気がして俺はもう一度目を凝らした。
窓のすぐ近く、頬が貼り付きそうな距離に姪の顔があった。ずっと前からここにいたような顔で、驚きすぎて声が出ない俺を笑っている。可笑しそうに歯を見せて、にたにたと。
「ねぇ、鏡は見た?」
耳元で囁くように、声が聞こえる。
「鏡を見ればぜんぶわかるのに」
笑いを堪えるような姪の声が、俺を苛立たせる。
「鏡は全部映してくれるよ?」
兄貴の言葉をオウム返ししているだけの癖に、俺の何が。そう言おうとした直前で俺は我に返った。
あいつが、こんなところにいるわけないじゃないか。俺は俯いて首を振った。
「いつまでそうやって逃げているつもり?」
耳元の声が次第に低くなった。顔を上げるとその顔は既に姪のものではない。薄く微笑んでいる丸顔の女を俺は睨みつけた。
戸部。
女の表情が変わった。悲しそうな顔でこちらを見つめている。
「失ってもわからないの?」
何のことだ。
「失ったこともわからないの?」
黙れ。どうしてそんな、哀れむような。眼を合わせていられなくて俺は顔を伏せた。
「わかりたくないんですよね、貴方は」
その声はもう戸部のものではなかった。含み笑いでこちらを見つめる奴の顔が脳裏に浮かぶ。
黙れ!
俺は小さく声を上げた。黙れ黙れ黙れ。頭痛を感じて俺は頭を押さえた。
「じゃあ……」
何も言うな。もう何も。
「お前は何故そこへ行ったんだ?」
奴の声じゃない。俺はおそるおそる顔を上げた。
「お前はそこに行って、何を見た?」
窓の外に立っているのは。
「そして、何を知った?」
兄貴が俺を見つめていた。兄貴の頭の上を、煙のように霧が流れていった。
鈴の音がこだました。
兄貴の顔がゆっくりと年を取り、親父の顔になった。見慣れた親父の遺影の隣に、もうひとつの遺影があった。
やめてくれ!
俺は車を飛び出した。
牛乳のような霧はまだ晴れていない。ただ離れたくて、逃げ出したくてめくらめっぽうに走ってふと気がつくともう声も、音も、何も聞こえなかった。
あたりは死のように静まりかえっていた。霧の他に見えるものは何も無い。山も、谷も、自分の乗ってきた車でさえ。手を伸ばしてもゆっくりと流れる霧の他に、何も触れるものは無い。全く方向を失ってしまったことに俺は気付いた。ここは、自分の立っている場所はもしかすると崖の縁かもしれない。そう思った途端俺はその場から一歩も動けなくなった。
助けて。
誰か。
声は出なかった。たとえ声が出てもそれが誰かに届くとは思えなかった。ねっとりとした霧が、体にまとわりつく。
誰も、いない。
誰も。
俺は兄貴に問いただした。実の母親の居場所を、やはり兄貴は知っていた。
自分の眼で見てくるといい、そう兄貴は言った。
教えられた住所に母親はいなかった。ただ仏間に通されただけだ。指し示されたのは、見ず知らずの中年女性の遺影だった。
線香の煙。
鈴の音。
蝋燭の炎。
涙は出なかった。
だって、知らない人だったんだ。
足は立っていられない程に震えていたが、俺はその場にしゃがみ込むことすら出来なかった。濃い霧は容赦なく俺の体を舐め、髪の毛も服もじっとりと湿り始めていた。霧が晴れることなんて無いんじゃないか。霧の向こうにあるはずの、俺が住んでいた世界なんてとっくに無くなってしまったんじゃないか。いや、俺は消えない霧に包まれたまま、死ぬまで、死んでも、誰にも気付かれないんじゃないか。馬鹿馬鹿しい考えだけが頭の中をぐるぐる回った。震える肩を押さえながら俺は声を絞り出した。
誰か!
声は白い霧に空しく吸い込まれ、木霊の気配すら感じられない。俺は叫んだ。叫ばずにはいられなくなっていた。誰かを呼ぶ為じゃなく、既に言葉ですらなく、ただ俺は喉を振り絞るように吠えた。怖かった。ただ怖かった。果てのない白が。音を吸い取る静寂が。ひとりきりであることが。
いくら叫んでも同じだった。掠れた声が一瞬途切れ、俺は静寂に押しつぶされる錯覚に捕われた。息が苦しい。ゆっくりと足から力が抜けた。支えきれなくなった体がスローモーションのように崩れ落ちるのを、俺は意識の遥か遠くから眺めているような気がした。
どのくらい時間が経ったのか−−ほんの一瞬だったのかもしれない。
気がつくと俺はしゃがみ込んでいた。今自分が生きているのかすら自信が無く、体に痛みが無いことにとりあえず俺は安堵した。何気なく眼を向けた霧の隙間に何か黄色いものが見えた。白い世界の中でそれは気付かない程にうっすらと、時々かき消されながら、確かにそこにあった。百回死ぬくらいの勇気を振り絞って俺はゆっくりとそれに顔を近づけ、眼を凝らした。
アスファルトに引かれた、オレンジ色のセンターラインだ。
俺はセンターラインに手を伸ばした。ゆっくりと降ろした手は確実にアスファルトを掴んだ。おそるおそる、少しずつ体をずらしラインの上に辿り着くと、前方に伸びたラインはほんの少し先で霧の中にかき消えていた。
俺は這いずってラインの伸びる方向に進んだ。手のひらに、膝に、アスファルトのざらつきを感じる。今まで見えていたラインが体の下へ、そして目の前には進んだ分だけ先にあるラインが見えた。
手のひらで掴み、這いずる。
霧の中からラインが立ち現れる。
アスファルトを膝で擦りながら、進む。
進んだ分だけ現れるラインが、方向を指し示し続ける。
何も考えず、ただなめくじのように進み続けた。ただ目の前のセンターラインが続く方向へ。指し示される、その方向へ。何十回、何百回繰り返しただろう。ふと顔を上げると、赤い大きな影がうっすらと見えた。それが自分の乗ってきた車だとわかるのにしばらくの時間がかかった。わかった後も、立ち上がることはできなかった。壊れたおもちゃのようにめちゃくちゃに手足を動かしじっとり濡れた車体を手で掴んだ瞬間、俺は自分の眼から温かいものが溢れ出すのを感じた。父親の遺体の前でも、母親の遺影の前でも出てくることの無かったものが自分の湿った頬を濡らしていた。俺は座り込んだまま車体を腕で抱えるようにして、赤ん坊のようにわあわあと声を上げて泣いた。
慎重に車を山肌に寄せエンジンを切ると、途端に静寂が俺に襲いかかった。細く折れ曲がった峠道には俺の他に通る車も無い。大きく息をついて俺はシートのリクライニングを倒した。
車ごと牛乳の中に沈んでしまったかのような風景が、窓の外一面に広がっている。
指一本でゆっくりと倒れる快適なシート、そんなものだって今は何の慰めにもならない。眠ってしまいたくて俺は目を閉じた。何の気無しに頭の上に振り上げた腕、スーツの袖から何かが香った。
線香の煙。
鈴(りん)の音。
目の奥で蝋燭の炎がゆらゆらと揺れる。
ゆらゆら。
ゆらゆら。
俺は目を開けた。深いブラウンで覆われた天井は見るべきものも何もなく、仕方なく俺は窓の外に目を向けた。目を凝らすと、ねっとりとした濃い霧がゆっくりと流れていくのが見える。
今までのことが、ついさっきまでのことが、まるで現実ではないかのように思える。後から後から限りなく湧き出して流れていく霧が、いつの間にか俺を異世界に運んで行ったのかもしれない。
……もし、そうなら。いや、その方が。
ぼんやりと眺めていた霧の隙間にふと、何かが見えた気がして俺はもう一度目を凝らした。
窓のすぐ近く、頬が貼り付きそうな距離に姪の顔があった。ずっと前からここにいたような顔で、驚きすぎて声が出ない俺を笑っている。可笑しそうに歯を見せて、にたにたと。
「ねぇ、鏡は見た?」
耳元で囁くように、声が聞こえる。
「鏡を見ればぜんぶわかるのに」
笑いを堪えるような姪の声が、俺を苛立たせる。
「鏡は全部映してくれるよ?」
兄貴の言葉をオウム返ししているだけの癖に、俺の何が。そう言おうとした直前で俺は我に返った。
あいつが、こんなところにいるわけないじゃないか。俺は俯いて首を振った。
「いつまでそうやって逃げているつもり?」
耳元の声が次第に低くなった。顔を上げるとその顔は既に姪のものではない。薄く微笑んでいる丸顔の女を俺は睨みつけた。
戸部。
女の表情が変わった。悲しそうな顔でこちらを見つめている。
「失ってもわからないの?」
何のことだ。
「失ったこともわからないの?」
黙れ。どうしてそんな、哀れむような。眼を合わせていられなくて俺は顔を伏せた。
「わかりたくないんですよね、貴方は」
その声はもう戸部のものではなかった。含み笑いでこちらを見つめる奴の顔が脳裏に浮かぶ。
黙れ!
俺は小さく声を上げた。黙れ黙れ黙れ。頭痛を感じて俺は頭を押さえた。
「じゃあ……」
何も言うな。もう何も。
「お前は何故そこへ行ったんだ?」
奴の声じゃない。俺はおそるおそる顔を上げた。
「お前はそこに行って、何を見た?」
窓の外に立っているのは。
「そして、何を知った?」
兄貴が俺を見つめていた。兄貴の頭の上を、煙のように霧が流れていった。
鈴の音がこだました。
兄貴の顔がゆっくりと年を取り、親父の顔になった。見慣れた親父の遺影の隣に、もうひとつの遺影があった。
やめてくれ!
俺は車を飛び出した。
牛乳のような霧はまだ晴れていない。ただ離れたくて、逃げ出したくてめくらめっぽうに走ってふと気がつくともう声も、音も、何も聞こえなかった。
あたりは死のように静まりかえっていた。霧の他に見えるものは何も無い。山も、谷も、自分の乗ってきた車でさえ。手を伸ばしてもゆっくりと流れる霧の他に、何も触れるものは無い。全く方向を失ってしまったことに俺は気付いた。ここは、自分の立っている場所はもしかすると崖の縁かもしれない。そう思った途端俺はその場から一歩も動けなくなった。
助けて。
誰か。
声は出なかった。たとえ声が出てもそれが誰かに届くとは思えなかった。ねっとりとした霧が、体にまとわりつく。
誰も、いない。
誰も。
俺は兄貴に問いただした。実の母親の居場所を、やはり兄貴は知っていた。
自分の眼で見てくるといい、そう兄貴は言った。
教えられた住所に母親はいなかった。ただ仏間に通されただけだ。指し示されたのは、見ず知らずの中年女性の遺影だった。
線香の煙。
鈴の音。
蝋燭の炎。
涙は出なかった。
だって、知らない人だったんだ。
足は立っていられない程に震えていたが、俺はその場にしゃがみ込むことすら出来なかった。濃い霧は容赦なく俺の体を舐め、髪の毛も服もじっとりと湿り始めていた。霧が晴れることなんて無いんじゃないか。霧の向こうにあるはずの、俺が住んでいた世界なんてとっくに無くなってしまったんじゃないか。いや、俺は消えない霧に包まれたまま、死ぬまで、死んでも、誰にも気付かれないんじゃないか。馬鹿馬鹿しい考えだけが頭の中をぐるぐる回った。震える肩を押さえながら俺は声を絞り出した。
誰か!
声は白い霧に空しく吸い込まれ、木霊の気配すら感じられない。俺は叫んだ。叫ばずにはいられなくなっていた。誰かを呼ぶ為じゃなく、既に言葉ですらなく、ただ俺は喉を振り絞るように吠えた。怖かった。ただ怖かった。果てのない白が。音を吸い取る静寂が。ひとりきりであることが。
いくら叫んでも同じだった。掠れた声が一瞬途切れ、俺は静寂に押しつぶされる錯覚に捕われた。息が苦しい。ゆっくりと足から力が抜けた。支えきれなくなった体がスローモーションのように崩れ落ちるのを、俺は意識の遥か遠くから眺めているような気がした。
どのくらい時間が経ったのか−−ほんの一瞬だったのかもしれない。
気がつくと俺はしゃがみ込んでいた。今自分が生きているのかすら自信が無く、体に痛みが無いことにとりあえず俺は安堵した。何気なく眼を向けた霧の隙間に何か黄色いものが見えた。白い世界の中でそれは気付かない程にうっすらと、時々かき消されながら、確かにそこにあった。百回死ぬくらいの勇気を振り絞って俺はゆっくりとそれに顔を近づけ、眼を凝らした。
アスファルトに引かれた、オレンジ色のセンターラインだ。
俺はセンターラインに手を伸ばした。ゆっくりと降ろした手は確実にアスファルトを掴んだ。おそるおそる、少しずつ体をずらしラインの上に辿り着くと、前方に伸びたラインはほんの少し先で霧の中にかき消えていた。
俺は這いずってラインの伸びる方向に進んだ。手のひらに、膝に、アスファルトのざらつきを感じる。今まで見えていたラインが体の下へ、そして目の前には進んだ分だけ先にあるラインが見えた。
手のひらで掴み、這いずる。
霧の中からラインが立ち現れる。
アスファルトを膝で擦りながら、進む。
進んだ分だけ現れるラインが、方向を指し示し続ける。
何も考えず、ただなめくじのように進み続けた。ただ目の前のセンターラインが続く方向へ。指し示される、その方向へ。何十回、何百回繰り返しただろう。ふと顔を上げると、赤い大きな影がうっすらと見えた。それが自分の乗ってきた車だとわかるのにしばらくの時間がかかった。わかった後も、立ち上がることはできなかった。壊れたおもちゃのようにめちゃくちゃに手足を動かしじっとり濡れた車体を手で掴んだ瞬間、俺は自分の眼から温かいものが溢れ出すのを感じた。父親の遺体の前でも、母親の遺影の前でも出てくることの無かったものが自分の湿った頬を濡らしていた。俺は座り込んだまま車体を腕で抱えるようにして、赤ん坊のようにわあわあと声を上げて泣いた。
<了>
奴のシャツ 目次 ― 2008年10月24日 22時13分28秒

奴のシャツ (inspired by KIRINJI)
1. 歯医者
2. 自宅
3. バー「Pacific」
4. 峠
キリンジという兄弟ユニットの曲に「奴のシャツ」ってのがありまして、それがこの話の元ネタになっとります。この歌詞が既に短編小説ぶち込んだような歌詞なんで、前半はほぼそのままです。
後半はかなり創作でぶっちぎってしまいましたが。
なかなか書くことに慣れません。
期間もぐだぐだなぐだぐだ小説にお付き合いいただき、ありがとうございました。
1. 歯医者
2. 自宅
3. バー「Pacific」
4. 峠
キリンジという兄弟ユニットの曲に「奴のシャツ」ってのがありまして、それがこの話の元ネタになっとります。この歌詞が既に短編小説ぶち込んだような歌詞なんで、前半はほぼそのままです。
後半はかなり創作でぶっちぎってしまいましたが。
なかなか書くことに慣れません。
期間もぐだぐだなぐだぐだ小説にお付き合いいただき、ありがとうございました。
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