The beginning of the end.2008年09月26日 20時26分10秒

「怖くないのかしら、みんな」
 いつものように仕事に向かう僕を見送りながら、彼女がぽつりと呟いた。
「怖くないさ」
 彼女にキスをして、僕は玄関のドアを閉めた。町中に備え付けられたスピーカーから、祈りの歌が流れている。

 今日は世界が終わる日だ。
 政府がそれを発表したのはちょうど一年前。政府の予想に反して、三ヶ月も経たないうちに誰もが「終わり」を受け入れた。
 もともと世界は終わりかけていた。赤道付近は高温で人が住めなくなり、内陸部の九割が砂漠と化していた。気象は正常値がわからない程出鱈目で、飢える人間は増える一方だった。

 仕事は午前中で終わった。僕は自宅で彼女と寄り添ったままその時を待った。
 死んだように静かな町に、鐘が鳴り響いた。

 何かが聞こえた。

 ……ふふっ……くっくっくっ

 スピーカーから流れる声は次第に大きくなった。

 ……はっはっ……ははは……ぎゃははははははははははは

 ハウリングが町を貫いた。

「なあ、本当に信じたのか?
 世界が終わるなんて。
 信じたのなら馬鹿だ。
 でも
 お前らは信じたんじゃない
 受け入れたんじゃない
 いいか
 お前らは世界を終わらせたいんだ。
 未来を想像するのが怖くて
 これ以上悪くなるくらいならいっそ終わらせてくれ
 お前らはそう願ったんだ。
 だがな
 世界はそんなに都合良く終わってくれたりしない。
 想像を遥かに越えたところまで
 限度を遥かに越えたところまで
 悪くなりながら
 堕ちていきながら
 世界は続くんだ。
 世界は続くんだよ!」

 意味がわからない。
 わからないのに、沸き起こってくる感情があった。

「世界は終わらない
 世界は終わらない
 世界は続くんだ
 これからも
 ずっと!」

 それは、毛が逆立つ程の怒りだった。

 僕は叫んでいた。叫びながら僕は彼女の首を締めた。動かなくなった彼女を置いて僕は外へ出た。スピーカーから狂った笑い声が響く。僕は力の限り吠えた。町は既に獣のような声で溢れていた。

 −世界は終わらないのか?
 −否。終わりが今、始まった。





 あ、いまさらなんですが、ボツネタなんですよ。

コメント

_ 儚い預言者 ― 2008年09月27日 17時16分04秒

 主体的なやりきれなさは、信じることの真実を暴き、ただ「私」無き世界、要するに「私」在る世界を蹂躙しようとする。「私」という世界の波紋を信じて。
 人類の歴史はある意味で、終りの始まりを続けているのかもしれない。

_ ヴァッキーノ ― 2008年09月28日 22時07分09秒

うまい作家は性別を超えるって
だれかが言ってましたが、
ぎんなんさんのことを男だとか、兄貴だとか思ってる人の
気持ちがわかります(笑)
今度、女性っぽいのも書いてみてくださいよお(睾丸いえ、懇願)

_ きのめ ― 2008年09月28日 22時13分04秒

さすが。
”終わらせたい”
自分の願望を人に知られるようで怖くて書けないフレーズです。
わたしにとっては。
とにかく、えぐりますねぇ、ぎん姐は!

_ ぎんなん ― 2008年09月29日 08時54分40秒

土日は結局一日中昼寝していました。ああ、空しい……。
これをボツにしたのは、「始まり」が無いなあというのが主なんですけど、書いててつまらなくなっちゃったのもあります。ありきたりかなあ、と。

預言者さま、
終わらない、と思っている人はいないような気がするんですよね。それぞれ時期や認識の差はあっても。
だから、敢えて「終わらなかったらどうする?」って、書いてみたかったんですよ。終わりに向かっているのに終わらない世界。絶望があるとしたら、そちらの方が強いんではないか、と。

ヴァッキー、
じょ、女性っぽいのですか。現時点ではネジ男くらいが限度なんですけど。
女性っぽいのを書く、って方が、私の場合性別を越えている気がする(爆)
って、誰が睾丸やねん。さすがにそれは存在しないので。

きのめさん、
えぐっちゃいました?
私は自分自身をえぐり倒すのに慣れちゃっているかもしれないですね。露悪的なのかなあ、ある意味。

_ おさか ― 2008年09月30日 09時38分10秒

むふふ
何故か殿方たちばかりが集うこのコメント欄♪
このスピーカーからの声って、私は何かすっごく女性的なものを感じるんですが、私だけか?

世の中が終わる、すっぱーんとキレイに終わるわけないじゃん? 甘いよ君たち
って極めて現実的な発想ですよね
女だ、絶対女!
と、思ってしまったのでした
そういう女のオソロシサを、男の視点で書いてる感じ?
でも書き手は女で、
って、このねじれ加減がいつもたまらないんですよねーふふふふ

_ ぎんなん ― 2008年09月30日 17時44分01秒

おさかさん、
あはは。なるほどー。
何が男性っぽいか女性っぽいか、全く意識しないで書いているんですが、確かにこの発想に男子のロマンティシズムはありませんねぇ。どちらかというとそれを破壊する向き。
それで、えぐっちゃうんでしょうかね。
こういう他者を破壊しかねない、身も蓋もないリアリズムをとっかえひっかえして、私はこれまで書いてきたような気がしてきました。
なーんだ、女性的じゃないですか、私。ねじれてるけど(笑)

ヴァッキー、私が女性っぽいのを書いたらそれこそ身も蓋も無さそうよ♪

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