会話2006年03月27日 02時02分28秒

「赤はどうだろう」
「駄目だ駄目だ。窓の外が一面血の海だったら心臓の弱い奴はショック死だ。それに牧場から苦情が来る」
「いや、ちょうどいい具合にピンクになるんじゃないかな」
「それだと変な気持ちになる奴がいないとも限らない」
「じゃあやっぱり青か。大海原みたいでいいんじゃないかな」
「泳げない奴は仰天するぞ。間違って溺れる奴がいないとも限らない」
「まさか」
「いいや、泳げない奴は水たまりで溺れる!」
「そんな馬鹿な。うーん、じゃあ黄色は」
「何か嫌だ」
「そうだな。じゃあ補色で紫は」
「却下」
「やっぱり。じゃあこれしかない。緑だ。これなら普通に地上にある色だからショック死する奴も変な気持ちになる奴も溺れる奴もいない。目にも優しいし自然が戻ったように感じるんじゃないかな」
「ああ、少なくとも不自然じゃあない」
「だろう?やっと意見が合ったな」
「でも草むしりしたばかりの人だとショックだろう」
「そのくらいのショックは我慢してもらおう。じゃあセットするぞ」
「ちょっと待て」
「何だ?」
「富士山だ」
「…何だって?」
「富士山が緑に染まったら抗議どころの騒ぎじゃないぞ」
「そうなのか?別に構わないと思うんだけどな」
「お前は知らないからそんな事を言えるんだ。富士は昔から信仰の対象なんだぞ。今でも御来光を毎日拝んでいる年寄りがいるんだ。富士の姿を変えたりしたら信仰の厚い年寄りはショック死だ」
「またショック死か」
「とにかく駄目だ。駄目だ駄目だ駄目だ」

相棒の剣幕に気圧されたように男は「雪を好きな色に変えられる装置」のスイッチを止めた。モーター音が止んで辺りに静けさが満ちた。

「今回は駄目だったけど、この技術はまた別の事に生かせるさ。だろ?」
「…お前さあ、さっき一人でこれを触ってたよな?」
「最終調整だ」
「ここの所、なんで凹んでるんだろうな?」
「ななんでだろう。俺が見たときはもう凹んでたぞ。あ、俺用事を思い出した。じゃあな」

コメント

_ 木の目 ― 2006年05月02日 16時55分06秒

これはマニアックすぎるかなぁ。
ちょっと解説が入らないと、どんな人の会話か、前の記事と後ろの作品からは、想像できない異空間ですよね。あたまに「SFのショートショートをひとつ」とか、「さて、どのようなものの会話かご想像ください」みたいな枕が必要かと感じましたが。
わたしの個人的な見解なのですが、ブログなどで小説やショートショートを書く場合、落語と一緒で異空間に誘う仕掛けが必要ではないかと思います。いかがでしょうか?

_ ぎんなん ― 2006年05月09日 00時24分57秒

うーん、わかりにくいですかぁ……。
「わかりにくい」という感覚があまり無いのです。だから「そーなのかー。むーー」という感想になってしまって、むー、んー、ちょっと考えます。

枕として「写真」では足りないですかね?これは画像の選定に困り果てて変な風景写真にしてしまいましたが。(雪の写真って無いんですよね。降らないから)

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