蛙男 ― 2008年04月27日 01時43分45秒
突然警備員に止められた。見慣れない顔だ。マネージャが飛んできて何かを囁くと警備員の態度はころりと変わった。出来損ないのロボットのように何度も何度も頭を下げる警備員を無視して俺は先を急いだ。春はいつだってこんな風に俺に降りかかる。
年々狭くなる楽屋の硬い椅子に腰を下ろし、俺は目の前の鏡を、鏡の中の俺を見つめた。
年相応の中年男だ。その顔には何の特徴もない。
熱いお湯に蛙を入れれば蛙は飛び上がって逃げる。だが冷たい水に蛙を入れて徐々に熱していけば蛙は水が熱せられていることに気付かないまま、茹で蛙になる。
俺は水を張った鍋に雨蛙を入れて火にかけた。ぼんやりと浮かんでいた蛙は水がお湯に変わり始めた頃、ぴょんと飛んで鍋から逃げた。
重ねてきた年を塗りつぶすように皺取りクリームとドーランを重ねると、俺の顔はまるで壁のようになる。しばらくその顔を見つめた後、いつものように俺は目を閉じた。
青春ドラマの主役だった、俺。役柄はそのまま俺のイメージとなり、俺はいつだって女性の嬌声に囲まれていた。
俺は目を開ける。燻製卵のような顔に若い俺のイメージが重なった瞬間、俺は化粧筆を手に取る。
俺が出演したテレビ番組を偶然電気店で見た。大型のデジタルテレビに俺の顔がアップで映し出された瞬間、隣で女子学生が笑った。
とても面白そうに。
スタッフが出番を告げる。俺は急いで衣装に着替えた。膝の抜けたジーンズにGジャン、最後にパチンと音を立ててかつらを留めると、俺は振り向いて鏡を見た。
中年男に被せられた「昔」という名の出来損ないのスーツ。
俺はいつこの鍋から出れば良かったのだろう。
ここから出ることなんて、俺には、もう。
耳を刺す悪声が名前を呼ぶ。ADが腕を回し拍手が沸き起こる。白っぽく見えるのはきつい照明のせいではなく、目までが茹で上がってしまった証拠なのかもしれない。そんな思いつきに苦笑しながら、俺はスタジオへ一歩踏み出した。
年々狭くなる楽屋の硬い椅子に腰を下ろし、俺は目の前の鏡を、鏡の中の俺を見つめた。
年相応の中年男だ。その顔には何の特徴もない。
熱いお湯に蛙を入れれば蛙は飛び上がって逃げる。だが冷たい水に蛙を入れて徐々に熱していけば蛙は水が熱せられていることに気付かないまま、茹で蛙になる。
俺は水を張った鍋に雨蛙を入れて火にかけた。ぼんやりと浮かんでいた蛙は水がお湯に変わり始めた頃、ぴょんと飛んで鍋から逃げた。
重ねてきた年を塗りつぶすように皺取りクリームとドーランを重ねると、俺の顔はまるで壁のようになる。しばらくその顔を見つめた後、いつものように俺は目を閉じた。
青春ドラマの主役だった、俺。役柄はそのまま俺のイメージとなり、俺はいつだって女性の嬌声に囲まれていた。
俺は目を開ける。燻製卵のような顔に若い俺のイメージが重なった瞬間、俺は化粧筆を手に取る。
俺が出演したテレビ番組を偶然電気店で見た。大型のデジタルテレビに俺の顔がアップで映し出された瞬間、隣で女子学生が笑った。
とても面白そうに。
スタッフが出番を告げる。俺は急いで衣装に着替えた。膝の抜けたジーンズにGジャン、最後にパチンと音を立ててかつらを留めると、俺は振り向いて鏡を見た。
中年男に被せられた「昔」という名の出来損ないのスーツ。
俺はいつこの鍋から出れば良かったのだろう。
ここから出ることなんて、俺には、もう。
耳を刺す悪声が名前を呼ぶ。ADが腕を回し拍手が沸き起こる。白っぽく見えるのはきつい照明のせいではなく、目までが茹で上がってしまった証拠なのかもしれない。そんな思いつきに苦笑しながら、俺はスタジオへ一歩踏み出した。
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