07. ナイト・フライト2009年09月04日 01時32分11秒

 今日はナツミに会えない。ナツミに会えないとボクはまるで存在する価値さえ無いように感じる。薄いカーテンの向こうで太陽までが姿を消し、気がつくとボクは暗闇の中でうずくまっている。
 どうせ、会えないのなら。
 どうせ、同じ暗闇なら。
 ボクは目を閉じる。瞼の裏に様々な紋様がフラッシュのように瞬いて消える。稲妻のような、水玉のような、グラデーションのような、砂嵐のような。ボクは紋様に線を引いて色を乗せて、瞼の裏に景色を描く。
 窓の外の、遥か遠くに見える摩天楼。
 暗くうねる海を横断する光の帯。
 ボクが作った、ボクだけの地上の星座。

 行こう。

 ボクがそう思うだけで身体は宙に浮く。思うままにボクの身体は窓をすり抜け電線の隙間をくぐり高く空へ舞い上がる。夜の風が頬に当たる。屋根を横切り電柱を飛び越え高層マンションの壁際をすり抜ける。下腹に少し力を込めるだけでふわりとボクは高度を上げ、あっという間に屋根が遠くなる。遥か向こうに摩天楼が見える。腕を横に伸ばしボクはスピードを上げる。脇腹でシャツが風にはためく。ふと気がつくと摩天楼はボクの遥か下方で無数の光を瞬かせている。

 静止したボクの真下、視界いっぱいに広がる、数え切れない宝石。
 何処までも連なる光の、その先の先に。

 不意に光がぼやけた。
 地上の星座のその遥か上で背後からボクを取り囲む、無限の暗闇。
 地上の光を全て吸い込んでもまだ飽き足らず、ボクを飲み込もうとする深い深い闇。

 だから、
 居て、欲しいんだ。
 ボクの、
 傍に。
 これ以上、
 ボクが闇に飲み込まれてしまわないように。
 会いたいんだ。
 これ
 以上
 闇に紛れてしまう前に。

 お願い、だから。

 ボクの体はゆっくりと降下を始めた。両手を広げたまま、足を下にして、ゆっくり、ゆっくり。星座が次第に近づく。ビルの窓。高層ビルの最上階で誰かがボクを見つめている。
 表情の無い顔をまっすぐに向けて、テツヤがボクを見ている。
 伸ばそうとしたボクの右腕がビルの灯りを遮りシルエットが浮かび上がる。太く、大きく、ごつごつとした鱗、の、ような。
 息が止まる。
 その瞬間ボクの腕はビルの先端を粉々に砕く。思わず動いた左腕が別のビルを根元からなぎ倒す。いつの間にか地に着いた足が建物をぺしゃんこに踏み潰す。バランスを崩したボクの背中でビルが小枝のようにぽっきりと折れる。突然時間が粘度を増した。ゆっくりと倒れこむボクの前で欠片たちがスローモーションのように放物線を描く。ついさっきまで星座だった光。砕けた光が流れ星のように色を失い、闇に変わる。わずかに光を残す欠片がボクの鼻先を掠める。視界を横切るその欠片の中に、テツヤが見える。まるで永遠のようにボクはまだ倒れ続けている。背中でビルが砕ける。ゆっくりと光が褪せていく中まるで哀れむかのようにテツヤがボクを見つめている。表情の無い、瞳。目を開けたボクは荒い息が静まった後も、灯りをつけることも、自分の体に触れることさえ出来ないまま遠く走る自動車の低音をただ、ぼんやり聞いている。

コメント

_ 儚い預言者 ― 2009年09月05日 03時18分22秒

 いいですね、物語はいつも重層的になっているものです。私の好きな幻想的でありながら、実質の重さが織りあわされている。それは時空が一つの実質で、その周囲を取り囲む暗黒に浚われそうになりながら、不幸が想いの外、安心な落ち着きを与えるという限りある世界と、無限という余りに奇跡と実質が飽和しているような世界の、危ない遊び、或いは暇な軽い遊びが陰鬱な実質になるようなことでしょうか。

_ ぎんなん ― 2009年09月05日 16時17分31秒

預言者さま、ありがとうございますー。
まさに、
> 暇な軽い遊びが陰鬱な実質になる
という感じです。逃げるつもりではじめたことによって一層実質が見えてしまったり。ちょっと入眠時幻覚っぽくもあり。

しかし、くおりてぃがばらついております(汗)

_ ヴァッキーノ ― 2009年09月06日 07時54分11秒

画像と文章がベストマッチしてますね。
マッチでーす!って感じです。
というより、画像を見ながら文章をイメージしたんじゃないかって
くらいマッチしてます。

しかも、文章の構成が預言者様の書く形式みたいで
面白かったです。
そしてなにより、預言者様のコメントがフツーにコメントしてるじゃないですか(笑)
で、これってホントに預言者様のコメントなのかなあって、最初疑ったくらいです。
なんか、ぎんなんさんと預言者様が入れ替わった、もしくは混ざり合ったような気分で、新しいなあと思いました。

_ ぎんなん ― 2009年09月06日 17時36分51秒

ヴァッキー、タミフル飲んだ?
いつも文章を書いてから画像を選んでます。自分の写真から選ぶ事にしてるんで「どーしよう」と途方に暮れる事もよくあります。今回は夜景であればOKですもの。簡単。

> 文章の構成が預言者様の書く形式みたい
うぇ???と思って読み直した。
ああ、うう、言われてみればって感じもするけれども、いや、だって、七五調なんてないしー、そそそそうですかねぇ。うぇうぇ。
私と預言者さまが混ざり合ったらどーなっちゃうんでしょう。想像付きません。うぇうぇうぇうぇうぇ。

_ おっちー ― 2009年09月26日 21時58分43秒

 だいぶ出遅れております。失礼いたしました。

 空を飛ぶ夢ってよく見ましたけど、文章にすると、ちょうどこんな感覚ですね。表現が巧いって思いました。
 リアルさと夢うつつな感じのバランスが絶妙で、グー!であります。

 アサブロって、カテゴリーがひとつの記事に対して二個付けられるんですよね。
 こういう文章作品を作るときには、特にぎんなんさんのこの作品の場合には、そのシステムがすごく生きていて、アサブロうらやましいなあって思います。
 グーブロはひとつの記事にカテゴリー一つだけなんですうー。

 文章塾も終わってからしばらく経って、そろそろ文章作品を投稿したい欲が湧いてきた頃ではないですか?
 10月には僕等の作ったサイト『都緒king物語』が始まりますので、そちらもよろしくお願いしますー。^^

 ではではっ

_ ぎんなん ― 2009年09月29日 21時19分17秒

おっちーさん、
だいぶ放置しております。失礼いたしました。
時々見るんですよね、飛ぶ夢。なんかふらふらーと電柱の上あたりを飛んでいて、あまり高くは飛べないんですが。

カテゴリーは確か2つと言わず、付けようと思えばもっとたくさん付けられたような気がします。ええっ、グーブロってそうなんですか。かといってアサブロを勧める気にはなれませんが(汗)

> 文章作品を投稿したい欲
それどころか、何故か落ち着かなくて文章が書けていません。ああっ9月が終わるーるるるー♪

_ おっちー ― 2009年10月23日 10時20分45秒

 もう10月も終わりそうですが、おめでたいお話を一席(?)。

 えっとですね、こんなあらたまって報告するのもなんなんですが、いちおうお世話になっている方には報告をしています。

 相方ができました。

 ええ、ええ、はい、はい、そうなんです。
 なんだか照れますが、そういうことになりました。
 いろんな方々のブログにこの内容のコメントを入れているので、なんだかなあ、ってわけなんですが、とてもいいコですよ。(支離滅裂)
 なんだよのろけかよ、って思わないでくださいね。
 まあとにかく今後とも、よろしくお願い致します。

 と、いうわけで、ではでは。

_ ぎんなん ― 2009年10月26日 01時17分11秒

やっと仕事が一段落つきまして土日寝まくっていたら、あれま。

おっちーさん、
あら、まあ、これはこれはこれは、おめでとうございますぅーーー♪
いやもう全然お世話なんてしておりませんのでわざわざ、あの、本当にもう、ご報告ありがとうございます。いやあ、なんつーの、青春やねぇ。うんうん。もう遠い昔過ぎてなんだか得体の知れない甘酸っぱさだけが身体の中に広がっておりまして、ええ、ええ、もう何を言っていいのやら。
ええ、あの、彼女さんの前だからといって、いろいろと頑張り過ぎないようにねー。ではではー。(タコ踊りをしながら去る)

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