04. いつだってさよなら2009年07月13日 21時35分08秒

 日曜日の表通りは照り返した陽射しに包まれて何もかもが白く見える。そびえ立つビルのガラスが目を灼いてボクは一瞬自分を見失う。慌てて隣を見るとナツミが振り向いて微笑む。黒くまっすぐな髪が揺れ白い肌が照り返しを受けて輝く。
 それだけでいい。
 その笑顔を見るとボクはいつもそう思う。
 予定の無い日曜日だった。強い光に射抜かれて動けなくなっていたボクの前に不意にナツミが現れてボクはすぐに好きなシャツに着替えて彼女の後を追いかけた。出かけるのはいつだってナツミの好きな場所。何処でもいい。ナツミの笑顔を見られるのなら何処へだって。白く光る街。ナツミの白いブラウスにも光が反射する。次は何処に行こうか。さっきは何処に行ったんだっけなんだか思い出せないもう彼女の笑顔しか思い出せない。信号が赤に変わりボクたちは人に囲まれて横断歩道の前に立つ。前を向いて微笑むナツミの視線を無意識に追ったボクの眼に交差点の向こう側で青信号を渡る人の群れが映る。
 テツヤがいた。笑いながら通りの向こうを歩いてゆく。テツヤの隣にはナツミがいてボクが見た事の無いような笑顔でテツヤに笑いかける。ボクは慌てて隣を見る。ナツミはちゃんと隣に居て視線を戻すとテツヤはもう何処にも見えなくてただテツヤに笑いかけたナツミの笑顔だけがボクの胸の中に貼り付いて消えない。
 違うよね?
 そんなこと、ないよね?
 ナツミを呼ぶ。振り向いて微笑むナツミと視線が合わない事にボクは初めて気付く。全てだと思っていたナツミの笑顔が突然ロボットのように見えてボクは白い光に押しつぶされそうになる。ナツミが不意に立ち止まりボクに体を向ける。
 バイバイ。
 いつの間にか日の光は黄色からオレンジに変わり始めている。変わらない笑顔のままでナツミがさよならを告げる。また会えるかな。泣きそうなボクはその言葉が言えない。
 さよなら。
 去って行くナツミの方向に日が沈んで行く。あたりは急に暗くなって街の灯りがともる。佇むボクは今日の記憶が曖昧な事に気付く。
 いつ約束をしたのか。
 どうやってここまで来たのか。
 何処に行ったのか。
 どんな会話をしたのか。
 そのすべてが白い光に霞んでボクはその場にしゃがみ込む。
 夢かもしれない。
 夢でもいい。
 むしろ夢であってくれ。
 それなのにいくら願ってもボクはこの夢から出られない。ボクは顔を上げる。看板の裸電球が目の前で瞬いてボクの視界は水玉模様になって誰かがクラクションを鳴らして不意に立ち上がったボクはある事に気付く。
 これが夢なら。
 夢の中でまたナツミに会える。
 何度さよならしたって、またここで。
 看板がぷつりと音を立てて消える。いつの間にか真夜中で街灯は少しずつ消えてゆく。壁に背中を預けてボクは星の無い夜空を見上げる。吸い込まれそうに暗い空から雨が落ち始める。夢なら濡れたって構わない。
 もう少しだけここで待ってみるよ。もう一度、ナツミに会えるまで。

コメント

_ ヴァッキーノ ― 2009年07月20日 21時28分36秒

男ってのは、こんな風にメメシイもんですね、実際。
いつまでも、根に持ってるんですよね。
突き詰めたら、ただスケベなだけだったりするんですけど(笑)
いくつになっても恋愛はすべきだなんて言う人がいますが、
ボクとしては、あんまりしたくありません。
20代前半までで、恋愛なんて限界でしょうね。
若いって、いいなあ。

_ ぎんなん ― 2009年07月21日 22時57分01秒

ヴァッキー、
恋愛って、「吸う」ひとと「吸われる」ひとがいるような気がする。
恋愛でエネルギー吸って元気になるひとと、
恋愛にエネルギー吸われて弱るひと。
なんだろう。心ひとつなのかもしれないけど、私ももう恋愛はやだ。もう男とか女とかいうのも面倒だからゾウリムシになって分裂で増えたい。ま、ヴァッキーは違うだろうけど(笑)

> 若いって、いいなあ
そういう風に読めたなら、良かった。

_ 蝶子 ― 2009年07月22日 17時33分09秒

これこれ、上のお二人。恋愛したくないって言ってるけど、あーたたちはせんでよろしい。まあ、どんな恋愛かにもよりますが、家庭持ちでしょーが。
独りでいるとさー、やっぱもう一回、て思うモンです。私は現実に今どんなええおとこが出現してもそいつに費やす時間がないから諦めざるを得ないだろうなあ、と玉の輿は考えないことにしています。って何の話だ。

娘の友達にナツミってのがいて、去年からつきあってた彼氏と別れたんだ、最近。(※中学2年生の話です)
ナツミは、もうそのモトカレのことが嫌で嫌でしょうがなくなって、さっさと新しい彼氏つくってるんだけど(※中学2年生の話です)、モトカレのほうはナツミが諦め切れなくて、やり直したくて、考え直してくれよお~って粘ってたんだ(※中学2年生の話です)。ついこないだもわが町には祭りというイベントがあってさ、一緒に行こうって誘ったけど玉砕。(全部娘に聞いた話です。笑)

「テツヤ」「タツヤ」が、ナツミのモトカレとイマカレの名前に微妙に似てて、たいへん面白おかしく読みました。

_ 儚い預言者 ― 2009年07月22日 19時00分35秒

 恋愛とは既婚であろうが、未婚であろうが永遠のテーマであって、結婚が最初にあっては、本末転倒であって、(ちょっと反社会性に走った)でもまあ人間の神性と心性はどのように屈折して、ベールを架けているか。
 実際夢とは、人間の多次元性の窓であり、要するに宇宙のホログラフィーの一片である。ここに一片とは全てを含むそれであり、含み含まれる宇宙の真実の輝きである。そこに解釈を与えるのが人の心性であり、全てを含むことを忘れて、ばらばらであるとして、繋ぎ合わせている。
 あーー素晴らしき幻の世界へようこそ。

_ ぎんなん ― 2009年07月23日 01時09分19秒

会社に日食グラスを持って行って、しっかり部分日食を見てきました。
部分と行っても90%くらい欠けるし、面白かったあ。

蝶子さま、
ははは。確かに家庭とやらは持っているわけですが、今その家庭とやらが無くなってしまったとしても、今のところもう一回という気はないです。ひとりになったらなったで寂しいのかもしれませんが、面倒の方が勝ちそう(汗)
> モトカレとイマカレの
そんな楽しみ方が(笑)何はともあれ楽しんで頂けたならなによりです。しかしはあ、中学2年生がですか。去年からってことは中1から。そんな年からヘビーな惚れた腫れたをやってて、お年頃になる頃には疲れたりしないのかしらん。

預言者さま、
結婚というのは契約ですから、本来自由な恋愛とは相容れないものなんじゃないですかねぇ。そう言えば私は生まれてこのかた結婚願望というものを感じた事がありませんでした(笑)
最近は眠りが浅いせいか、時々夢を見ます。よし、じゃあ宇宙を見てきましょうか。おやすみなさい。

_ 儚い預言者 ― 2009年07月29日 01時26分46秒

 二元性とは、この世の原理であり、一つから分かれた愛の奇跡であり、かつまた、分離あるいは対立という空虚なる、実質からの隔たりである。
 男と女は、人間の第一の夢に繋がる大いなる謎であろうか。これは勿論宇宙のどこまでも最初の物語であり、邂逅という光悦に向かう永遠の果てしない愛の夢である。

_ ぎんなん ― 2009年07月30日 21時55分03秒

九州北部、ようやく梅雨が明けそうなんだそうです。
ほっとするような、うんざりするような。

預言者さま、
「二元論で表されるものは、もともとは同じもの」という意味に読んでいろいろ考えていたら、なんか楽しかったりしました。
でも男女はどうなんでしょうね。「男らしきもの」「女らしきもの」という理念的なものは綺麗に分離され対応するのかもしれないけれど、実際の人間はそれぞれふたつがうにゃうにゃ混ざり合っているような気がします。だから面白いのかもしれませんが。

_ 儚い預言者 ― 2009年08月05日 11時17分14秒

 入れ替え可能。というか、相互に互換?がある。
 重なるのに、一緒にならない。違うのに同じ。
 これがこの世の奇跡であり、愛の肝心要の概念であると考えます。

_ ぎんなん ― 2009年08月08日 22時12分41秒

預言者さま、
入れ替え可能なのに、一生わかり合えない……。
愛とは深いものですねぇ……。

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