四月生まれ(要するに誕生日記念)2006年04月22日 02時54分46秒

誕生日にいい事なんてあった試しが無い。
恭子はそう言ってため息をつく。

それでなくても木の芽時って言うんだっけ?気候が変わる頃だから体調も精神も不安定になる。秋はどんどん寒くなるからダウンしていくだけで比較的楽。でも春はどんどん暖かくなっていくから変にアッパーになって制御が効かなくなる。歩かない馬と暴れ馬、乗るならどちらが楽だと思う?分かるよね?

俺はただ曖昧に頷く。

子供の頃からそう。四月に誕生日なんて碌なもんじゃない。毎年クラス替えがあって、クラスが変わって友達が出来る前に誕生日が過ぎる。その後で友達が出来るでしょ?誕生日を訊かれる。「あー、過ぎちゃったね」って、それが毎年。本当、馬鹿馬鹿しいったらありゃしない。

「そりゃ残念だったね」俺はグラスの中の氷をかき混ぜる。

四月の誕生石って知ってる?ダイヤモンド。ダイヤなんていつ生まれたって欲しがる石じゃない?しかも気軽に買える、気軽に貰える石じゃない。それってなんだかつまらなくて、ありふれた名前のようにつまらなくて、真珠やトルコ石がどんなに羨ましかったか……ねぇ、聞いてる?

氷がからからと音を立てる。慌てて覗いた彼女の目が座っている。

去年だって、一昨年だって、いい事なんて何も無かった。だから、もう期待しない事にしたんだ。今日はなんでもない普通の日で、昨日や明日と同じような日で、そう思う事にした。だから、ま、どうでもいいんだ。

(どうでもいい事なんてないだろ)
そんな事を言いながら恭子は多分、毎年儚い期待をして、裏切られた事ばかりを覚えて、思い出して、それでも儚い期待をしているから、今、俺の前にいる。

自分の誕生日を忘れるような奴は、ドラマの中にしかいないもんさ。

恭子はカウンターに肘をついて頭を手のひらで支えている。ちょっとだけ息を呑んで、俺は恭子の腰を引き寄せる。

コメント

_ 木の目 ― 2006年05月02日 17時12分12秒

わたしは3月の後半だから、いつも春休みでしたね。
感想
「俺」のほうがいいのかな。個人的な好みですが、三人称で思い入れのある男性名のほうが、地の文の独白が生きるように思いました。カウンターの一枚板が聞いているような感じとか、どうでしょうかね。
おもわずオフコースの詩を思い出してしまった。あぁ帰らざる青春の日々・・・(それじゃアリスじゃん)

_ ぎんなん ― 2006年05月09日 00時48分43秒

夏休みだったり、正月だったり、みんなそれぞれありますよね。何と言うか「無理矢理愚痴ってみた」という感じの文章ではあります。でも「誕生日に碌な事が無い」と思っているのはちょっと事実。
「俺」にしたのは多分登場する女性も男性もどちらも私だからだと思うんですよね。結局、一人漫才状態で。三人称にすると多分書いている本人が照れるのです。
三人称で文章が書けるようになったのって本当に最近の事で、その辺の加減が分からないのもあります。

今までで最悪の誕生日は、「ごく普通に仕事して会社から帰る途中、駅の電光掲示板で桂枝雀師匠の訃報を知った」ってのですね。足の力が抜けそうでした。

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