明るく陽気な飲み会会場2006年03月05日 22時09分25秒

BARぎんなんへようこそ。
もてなしませんが、まあどうぞ。

胡瓜亭2006年03月19日 01時37分58秒

 秋彦はいつも通り母親に怒鳴り散らした後、わざと足を踏み鳴らすように二階の自室へ登った。朝食のメニュー。わざととしか思えない。何から何まで気に食わない。
 スイッチを入れると腹の底を揺らすようなモーター音とともに画面が現れる。椅子を揺すりながら自分のブログをチェックする。
 「ブログ初心者でーす(=^ . ^=)」
 付いたコメントをクリックすると女性が笑顔で大股開き。開設して半年、有名どころのブログにトラックバックを繰り返しても増えるのはスパムばかりだ。
 秋彦は小説家になると決めている。小学三年生の頃に県の作文コンクールで入選した腕前の持ち主である。デビュー前の腕慣らしのつもりでブログを開設したのだ。秋彦の小説はたちまちネットの話題をさらい、鳴り物入りで小説家デビューした後は伝説のブログとしてネット上に語り継がれる、はずだった。
 しかし今日は違う。今度こそ。秋彦は「お気に入り」のリンクをクリックした。

 「胡瓜亭文章教室」

 ネット上のコミュニティに小説を投稿したのは昨日の事だ。
 アクセスすると既に活発な論議が交わされている。秋彦は自分の文章を探した。あった。ページを開きスクロールバーを一気に下までドラッグする。
 "コメント(0)"
 「…もうちょっと目立つタイトルにすれば」
 声に出してみたが足はいらいらと床を叩いた。何で、何故誰もこんな傑作に気付かない。秋彦はF5キーを押した。
 "コメント(0)"
 画面は変わらない。再読み込みをクリックしてみる。F5を連打する。キャッシュをクリアしてみる。ウェブブラウザを再起動してみる。ついでにパソコンも再起動してみる。
 "コメント(0)"
 何故だ。何故俺を無視する。俺はここだ。無視するな。俺は特別なんだ。選ばれた人間なんだ。でないと俺の価値なんて何も。
 F5キーの表面はすり減り、マウスの塗装は剥げかかっている。それでも憑かれたように秋彦はリロードを続けた。既に日は高く、空は快晴。

由来2006年03月19日 12時22分44秒

ぽとっ。
秋。国道沿いに植えられたイチョウの木から銀杏が一つこぼれ落ちる。
街路樹として植えられるイチョウには本来雄の木が選ばれる。秋に実が落ちると臭くて汚らしくて厄介だからだ。それにも関わらず時に雌の木が混じるのは「見分けにくいから間違った」それだけである。
銀杏の実が発する匂いの成分は硫黄であるらしい。鼻をつまんで歩くもの。気にせずぐしゃりと踏みつぶすもの。あっという間に道の上は汚らしく、お洒落な人なら避けて通るような状態になってしまう。外側の柔らかい肉はその外見と匂いで触るのをためらわせるが、実際触ると人によってはかぶれてしまう。いいとこなしである。
匂いに苦心しつつゴム手袋で銀杏を拾う者もいる。拾った実の肉を剥ぐのがまた一苦労。まず袋のまま一週間ほど日なたに置き完全に腐らせる。その後手でもんだり足で踏んだりして肉を剥ぎ、ごしごしと洗う。一週間も干せばあのぶよぶよの肉の中にあったとは思えないほどに綺麗に尖った薄茶色の種が現れる。
この種は自らを閉ざすように硬い殻で覆われている。手で割る事はまず不可能だろう。ペンチを使って割るのも大変な硬さである上に力を入れ過ぎれば中の柔らかい実まで砕けてしまう。苦心してそれを割った者はやっとふうわりと薄皮に包まれた緑色の宝石に出会う事ができるのだ。
だから、

「お前は、ぎんなん!」
「へっ?」

煙草臭い落語研究会の部室で会長は私を指差して一言、そう宣言した。誰も異論を唱える事は無くあっという間に私の「芸名」が決まった。落語会で高座に登るときの名前である。
命名の理由は、その時の会長の頭によぎったものが何なのか、知る者は無い。

塩をふった炒り銀杏は非常に美味い。が、銀杏に含まれる4-0-メチルピリドキシンという成分がビタミンB6の作用を阻害する為、食べ過ぎると稀に中毒症状が出ることがある。小さな子供は特に危険らしい。
果たしてこちらの「ぎんなん」は、読みすぎ注意、といきますかどうか。